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Femcare×Cannabis​

医療大麻のお医者さんに聞く
女性の身体と薬草大麻

日本における「CBD元年」と言われる2019年は、女性向けウェルネス市場が拡大した「フェムケア元年」でもありました。

女性のウェルビーイングに対する投資の機運の高まりとCBDブームによって、数々のCBD含有のフェムケアアイテムも日本に上陸。以降、自身の不調をきっかけに、CBDから大麻草の可能性へと目を向ける女性の輪が広がり始めています。

 

世界に目を向けると、大麻草の使用が合法化した国や一部の地域(州)では、PMSや更年期障害の緩和に大麻草を役立てる女性が増加傾向にあるそう※1

 

本記事では、大麻草が女性特有の不調にどう作用するのか、そのメカニズムについて医療大麻のお医者さん正高佑志先生に解説いただきました。

Endo
cannabinoid system

大麻草と人間は、太古の昔より切っても切れない関係だった

大麻草と聞くと、違法薬物というイメージから忌避感を抱いている女性は多いかもしれません。あるいはCBDは良くて、THC(精神活性作用のある大麻草の成分)は悪いと考えている人もいるでしょう。

 

CBDもTHCも、どちらも大麻草に含まれる主要成分ですが、実は人間も、これらに似た神経伝達物質を自らが作り出していることがわかっているのです。この神経伝達物質のことをエンドカンナビノイド(内因性カンナビノイド)と呼び、進化の初期段階から生物に存在していることが知られています。

 

さらにカンナビノイドと結合する「受容体(CB1/CB2)」も身体中に広く分布し、カンナビノイドを分解し利用するための「分解酵素」も人体で生成。私たちの身体はカンナビノイドを作るだけではなく、カンナビノイドを受け取り代謝するシステムをも備えているわけです。

 

この「エンドカンナビノイド」、「カンナビノイド受容体」、「カンナビノイド分解酵素」の3つをまとめてエンドカンナビノイドシステム(ECS)と呼びます。​

「ECS」は、昆虫以外、全ての動物に備わっている身体のホメオスタシス※2を維持する上で欠かせない機能です。食欲、睡眠、痛み、免疫、気分、記憶、体温などの調節はもちろん、女性の生理周期やホルモンバランスの変動、さらに妊娠期の体調の変化、出産後の母乳分泌など、生命に組み込まれた自動調節機能全般に関係しています。

 

このことからも分かる通り、人間の身体はカンナビノイドがなければうまく機能しません。事実、エンドカンナビノイドは遺伝的な要因やストレス、食生活、腸内環境、慢性的な痛みや炎症、さらに加齢、ホルモンの変化…などによって欠乏しやすく、これにより様々な病気や不調が引き起こされている可能性が最近の研究で指摘されています。

 

大麻草由来のカンナビノイドを摂取することは、エンドカンナビノイドの欠乏を補い、ECSのバランスを整えることに繋がりますから、結果、女性特有のトラブルはもちろん、様々な不調の改善に役立つと考えられます。

※2:ホメオスタシス(恒常性)

外部環境の変化に適応しながら、体内の状態を一定に保つ仕組みのこと

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チームで人間の健康を支えるカンナビノイドのハーモニー

大麻草には、カンナビノイドをはじめ、テルペノイド、フラボノイドなど、数百種類もの化学物質が含まれていますが、これらの化合物が相乗的に作用することで、より大きな効果が得られます。単一のカンナビノイドを単離して使用するよりも、大麻草全体を摂取するほうが、はるかに効果的というわけです。

 

これをアントラージュ効果と呼びますが、例えば塩でも同じことがいえます。海水を精製し、塩化ナトリウムだけを抽出した食卓塩は血圧を上げますが、にがりなどの多彩なミネラルを含む天然塩なら血圧が上がらないというのは、多くの人が知っていることでしょう。

 

私自身も、神様が創った元々のバランスに大麻草の真価があり、多成分系の生薬としてそのまま使った方が、薬効が高いと考えています。

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神様が創った配合で薬効が増幅!

多彩なカンナビノイドの種類と作用

大麻草特有の化学物質であるカンナビノイドは、160種類以上もあるといわれています。そのうち最もよく知られているのが、研究が進んでいる主要カンナビノイドのTHCとCBDです。

 

それ以外のカンナビノイドを希少カンナビノイドと呼びます。各カンナビノイドにはそれぞれ薬効がありますが、単離させて個別に利用するよりも、自然の摂理にかなった天然由来の配合をそのまま活用することで、更年期に伴う関節痛、筋肉痛、頭痛、不眠、集中力・記憶力の低下、気分の落ち込みほかアンチエイジング効果を増幅させることが期待できます。

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​※THCとTHCVは日本での使用が禁止されています。

※これらの作用は、個々の体質、摂取量、摂取方法などによって大きく異なる場合があります。


※研究段階の作用も多く、更年期症状への効果については更なる研究が必要です。

※特に持病がある場合や他の薬を服用している場合は、医師に相談することが重要です。

※法律で規制されている地域では、使用が禁止されています。

Maternal and Cannabis

​リスクとベネフィットの見極めが重要​。妊娠、育児と大麻草

医薬品の大半は、妊婦に対する安全性が確立されていません。リスクとベネフィットを比較検討し、リスクが上回る場合は慎重に選択することが必要です。この考え方は、大麻草にも当てはまります。

過去の調査では、妊娠中に大麻を使用した母親から生まれた子どもは、そうでない子どもに比べてサイズが小さい傾向があることが報告されています。しかし、知能への影響については、統計的に有意な結果は得られていません。

大麻草の利用が合法化された一部の国や地域では、大麻草の制吐作用が重篤なつわりに役立てられていたり、妊娠中の不安やストレスといった心のケアに使われることもあり、必ずしも妊娠中の大麻草利用が「極めて危険」とは言えないでしょう。育児ストレスの軽減などを目的とした使用例も存在し、母親の精神状態が悪化することで起こりうるリスク(虐待など)を考慮すると、大麻草の使用が害を少なくする可能性も否定できません。

 

ただし、大麻草の成分は胎盤を通過し胎児の脳にも到達しますから、全く影響がないともいい切れません。授乳中についても同様です。

日本のように大麻草が法律で厳しく禁止されている国や地域では、使用による母親の逮捕が育児に大きな支障をきたす重大なリスクがあるので推奨できませんが、合法化された地域での利用に際しても、リスクとベネフィットのバランスを慎重に見極め、賢く判断する必要があります。

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Future of Cannabis in Japan

医療大麻の今後、サプリメントの可能性

現在、世界中で大麻草の研究と臨床試験が進められ、一部の国や地域では既に医療大麻として使用が認められていますが、依然として広範な利用には至っていません。その理由として、まず挙げられるのが法的な規制。加えて、西洋医学の要素還元主義的な考え方が障壁になっていることも考えられます。

 

西洋医学では、特定の化学物質を単離・精製して薬効を高めるアプローチが主流です。しかし、大麻草は多様な成分が複雑に相互作用することで効果を発揮するため、成分のばらつきが生じやすく、「薬」として承認しにくいのです。

 

日本においては医療大麻合法化により、まず「てんかん」に的を絞った臨床試験が進められていますが、特定臨床研究をより広い疾患に拡大しようという計画も進行中です。西洋医学では治療法がないとされる疾患や病気、さらにがん、脳腫瘍などに対して、カンナビノイド製剤は研究上「有望」だと考えられています。医療業界の専門家からの理解とサポートを得られれば、てんかん以外にも医療大麻が適応される可能性があります。

 

一方で、カンナビノイド製品におけるTHC含有量の基準値についても5年後の法律見直しで引き上げられる可能性もゼロではありません。精神作用のない範囲のTHCを含む製品で、例えば更年期に伴う不定愁訴に対処するというのも、そんなに遠い未来ではないと考えています。

 

今はまだ、厳しい規制のなか大麻草そのものの恩恵を受けることが難しい状況ではありますが、だからこそ正しい理解を深め、広げることが大切です。

Column

大麻草にまつわる日本の法律について

第二次世界大戦終戦直後の1948年に施行された「大麻取締法」 が75年振りに改正され、2024年12月よりその一部が施行となりました。これにより、「大麻草」と大麻草に含まれる「THC」が麻薬や向精神薬の運用を定める「麻向法」によって規制されることになり、医師の処方箋があれば医療での利用が可能になったのです。つまり、法改正によって「医療大麻が合法化」されたわけですが、その一方で「麻向法」による「使用罪」が適用され、より重い罰則が課せられることになりました。

 

「大麻取締法」では、大麻草の所持・栽培に対して懲役5年なのに対し、「麻向法」では大麻草とTHCを使用すると懲役7年以下の罰則が課せられることになります。

また、従来の部位規制に加え、THCの濃度規制が追加されたことも注目すべき点です。

 

新法では栽培可能な大麻草のTHC濃度は0.3%と規定。これは、産業用大麻の栽培促進を意図したものと見られ、欧米諸国とほぼ同水準です。しかし、CBDオイルなどのカンナビノイド製品に含まれるTHC残留限度値は、製品形態によって0.00001~0.001%と極めて低い値に設定されました。これは欧米諸国の0.1~1%という基準値と比較して、桁違いに厳しい数値です。

 

そのため2024年12月まで流通していたCBDのブロードスペクトラム※3製品のほとんどが、現在使用できません。カンナビノイドの持つ、アントラージュ効果によって、持病や不調を管理していた人にとっては死活問題といえ、多くの課題が残されています。

※3:ブロードスペクトラム

CBDに加えて、様々なカンナビノイド、テルペン、フラボノイドなど大麻草に含まれる多彩な成分から成る「フルスペクトラム」から、THCを除いたものと定義されています。しかし、製造過程でTHC を完全に除去することは不可能に近く、微量のTHCが残留している可能性もあり、新法で定められるTHC濃度の基準をクリアするのは至難の業。そのためほとんどのブロードスペクトラム製品が規制対象になりました。現在国内で使用できる製品の多くは大麻草からCBDのみを抽出・精製した「アイソレート」と呼ばれるものですが、アントラージュ効果は期待できません。

解説してくれたのは

正高佑志先生

脳神経内科医。1985年京都府生まれ。熊本大学医学部医学科卒。2016年カリフォルニア州でのカンナビノイド専門医との出会いを機に、医療大麻を専門とすることを決意。現在、日本臨床カンナビノイド学会副理事長、一般社団法人Green Zone Japanの代表理事として医療大麻に関する医学的エビデンスに基づいた情報発信を行う他、アーティストとしても注目を集める。医師×ラッパーという異色の活動で政界をも動かし、新しい文化の幕開けに寄与する。著書に『お医者さんがする大麻とCBDの話』(彩図社)、『CBDの教科書』(ビオ・マガジン)。

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